冷媒R32ビル用マルチエアコンの安全対策について

冷媒R32を使用したビル用マルチエアコンの安全対策をご案内します

  • 2025年4月よりビル用マルチエアコン(新設用)の冷媒が、温暖化係数の低いR32冷媒への切り替えが法律で定められています。
  • R32冷媒は、微燃性であるため冷媒封入量の多いビル用マルチエアコンの設置には、安全対策が必要になる場合があります。

冷媒R32への切り替えの背景

地球温暖化を抑制するために、オゾン層保護を目的とした、国際的な枠組みが制定されています。
2050年カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と吸収量を差し引いて「実質ゼロ」にすること)の実現に向けて空調機などで使われる冷媒は2000年前後からオゾン層破壊係数ゼロの冷媒への切り替えを段階的に進めていくことがフロン排出抑制法にて制定されています。

2025年4月よりビル用マルチエアコンの新規設置用の機器も指定対象になり、冷媒をより地球温暖化係数の低いR32冷媒に切 り替えたものでなければ販売・設置ができなくなりました。

冷媒R32は温暖化係数は低いのですが微燃性のため、安全対策が必要な場合があります。こちらでは対応すべき内容について詳しくご案内いたします。

ビル用マルチエアコン(新設用)が2025年対象に。「指定製品制度」について

フロン排出抑制法に基づく「指定製品制度」は、フロン類使用製品の低GWP化・ノンフロン化を進めるため、フロン類使用 製品(指定製品)の製造・輸入業者に対して、出荷する製品区分毎に、環境影響度低減の目標値、目標年度を定め、事業者 毎に、出荷台数による加重平均で目標の達成を求める制度です。

指定製品制度の対象製品(業務用空調機関連抜粋)

製品の区分従来の冷媒目標年度冷媒
店舗・オフィス用エアコン
(床置形除く)
法定冷凍能力3トン未満R410A2020年R32
法定冷凍能力3トン以上R410A2023年R32
店舗・オフィス用エアコン 床置形R410A2024年R32
ビル用マルチエアコン 新設用(冷暖同時・寒冷地向け・水熱源除く)R410A2025年R32

上記の表の通り、2025年からビル用マルチエアコンの冷媒の対応が必要となります。

参照サイト:経済産業省 指定製品製造業者等に対する規制
https://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/ozone/furon_seihin_seizo.html

新冷媒R32の特徴

R32冷媒は、従来の冷媒であるR410Aと比べて環境への影響が低減される一方で、微燃性があるため取り扱いに注意が必要となります。

◇メリット◇

  • オゾン破壊係数ゼロ
  • R410に比べ、地球温暖化係数が低い
  • 毒性がなく安全性が高い
  • 蒸発潜熱が大きいためコンパクト化が可能
  • 熱伝導率が大きく効率的
  • 単一冷媒で追加充填が可能

◇デメリット◇

  • 微燃性のため、取扱いに注意が必要
  • 圧力が高いため高耐圧仕様による施工が必要(R410Aと同等圧力)

R32冷媒の安全対策ガイドライン

ビル用マルチエアコンは冷媒量が多く、分割された室内に冷媒が漏れた際には、着火リスクが許容地を超える場合があるため、安全対策が必要なケースがあります。日本冷凍空調工業会(JRAIA)が発行する冷媒の安全性に関するガイドラインが制定されました。

日冷工ガイドライン JRA GL-20

対象:冷凍能力5トン以上20トン未満の各種冷媒設備
目的:特定不活性ガス(微燃性冷媒を含む)を使用した冷媒設備からの冷媒ガス漏えい時の燃焼防止措置を規定。
特徴:
  1. 冷凍保安規則関係例示基準に取り込まれており、法令に準じる位置づけ。
  2. 遵守しない場合、罰金の可能性がある。

日冷工ガイドライン JRA GL-16

対象:業務用パッケージエアコン(ビル用含む)
目的:R32などの燃焼性冷媒を使用したエアコンの安全な設置と運用のためのガイドライン。
特徴:
  1. 冷凍能力に関わらず、業務用パッケージエアコンに適用される。
  2. 室内ユニットへの検知器の内蔵や、安全対策の要否判定条件などを規定。

R32冷媒のビル用マルチエアコンの安全対策 要否の判定

系統内に封入された冷媒R32がすべて室内に漏れ出したとしても、燃焼する濃度に達しないよう、計算をもとに設置可否や安全対策の実施要否の判定をします。

冷媒漏えい想定箇所

冷媒漏えい想定箇所①室内機熱交換器 ②冷媒配管のフレア接続箇所
漏えい想定除外箇所・ろう付け箇所・ねじ接合継手(ISO14903準拠)箇所・密閉された天井裏

室内機安全対策 要否判定フローチャート

①系統ごとの総冷媒量が150kg以上である 総冷媒量(kg)=出荷時封入量+追加封入量

システムの見直しが必要

②漏えい時最大濃度が、0.076kg/㎥以下である 総冷媒量(kg)÷(床面積×漏えい高さ)≦ 0.076km/㎥
  • R32冷媒の燃焼下限界濃度(LFL)は0.307kg/㎥。ビル用マルチエアコンの漏えい時最大濃度が4分の1の0.076km/㎥
    以下の場合は安全対策不要です。

■冷媒量を制限する

馬力に応じて冷媒量を求める 総冷媒量≦0.076×床面積×漏えい高さ

漏えい高さは1.5m以上。1.5m未満の場合は、かくはん必要

冷媒量を制限する 1
冷媒量を制限する 2
冷媒量を制限する 3
冷媒量を制限する 4
冷媒量を制限する 5
  • 設置高さが不明な場合は、室内機のタイプによって、上図※の数値とする。但し、実際のたかさが※より低い  場合は低い方の設置高さを漏えい高さとする。

③地下最下層以外の部屋である

④地下最下層の部屋であり、総冷媒量÷(床面積×漏えい高さ)>0.307kg/㎥ である

安全対策が必要な場合の措置

①検知警報機 + 遮断装置

①検知警報機 + 遮断装置

②検知警報機 + 機械通風装置

②検知警報機 + 機械通風装置

③検知警報機 + かくはん装置

③検知警報機 + かくはん装置

室外機の設置場所が、半地下やくぼんだ空間、狭小設置等の場合は、制約・注意事項がありますので、各メーカーカタログ等でご確認ください。

安全対策に関するオプション品について

メーカーごとに、様々な検知器、警報機、遮断装置、機械通風装置のオプションが用意されています。

冷媒検知警報機

冷媒検知警報機

安全遮断弁

安全遮断弁

リモコン

リモコン

検知器は、室内機に内蔵されている場合もございます。また床置形の室内機には、かくはん装置が標準搭載されているメーカーもあり ます。

各メーカーのR32冷媒安全対策要否判定ツールのご案内

安全対策の要否を確認できるツールを各メーカーが用意しています。簡易判定ができます。